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2016/02/04

PaperBook’sForever!

hamaguchi
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書籍の定義

一口に本と言っても、その定義は時代によって変わるものかもしれません。1971年発行の「出版辞典」には書籍の定義として次のように記載されています。

1、文字、図録、写真などについて、伝達を目的として表現した内容があること。
2、内容が紙葉に印刷されていること。
3、紙葉がバラバラにならないようにひとまとめにされ、製本によって中身と表紙がそろっていること。バラバラになるような仕様のものは取次会社(以降、取次と表記)では書籍と認めていません。
4、ある程度の分量があること。(裏表の表紙を除き50ページ以上の非定期の出版物をいい、それ以下の頁数のものは取次では書籍と認めていません。)

ここで言う書籍とは、紙の本をベースとして述べられているに違いありません。しかし1990年代、電子書籍が発表されました。生まれた時からipadやkindleが身近にある若い世代にとっては、それを本、書籍のひとつとして何の抵抗もなく受け止めているのでしょう。「未来に遺こる紙の本」の条件とは何か、私たち紙流通の役割は何かを考察してみたいと思います。

紙の本を読みなよ  アニメ「PSYCHO-PASS(サイコパス)」より

 舞台は西暦2112年の日本。人気SFアニメ「サイコパス」で描かれる近未来の日本では、人口知能「シビュラシステム」が導入され人間のあらゆる心理状態や性格傾向にいたるまで中央省庁で管理されています。人々の生活はデジタル機器に支えられ便利になる一方、人間本来の五感力は低下しているようです。
 そういった管理社会をあざ笑うかのようにIQ180の凶悪犯罪者槙島聖護(まきしましょうご)が出現します。彼とパートナーとの会話が出版界で話題になりました。ひとしきりの読書談義後、槙島お奨めの本を「今度ダウンロードしておきます」というパートナーに対し、読書家の槙島は答えます。

槙島「紙の本を買いなよ。電子書籍は味気ない」
チェ「そういうもんですかねぇ?」
槙島「本はね、ただ文字を読むんじゃない。自分の感覚を調整するためのツールでもある
チェ「調整?」
槙島「調子の悪い時に、本の内容が頭に入ってこないことがある。そういう時は、何が読書の邪魔をしているのか考える。調子が悪い時でも、スラスラと内容が入ってくる本もある。何故そうなのか考える。精神的な調律。チューニングみたいなものかな。調律する際大事なのは、紙に指で触れている感覚や、本をペラペラめくった時、瞬間的に脳の神経を刺激するものだ

100年後、紙業界がどの様に変貌するか定かではありませんが、紙の本の本質をずばりと突いていると思いませんか?この会話がきっかけとなり2012年ある出版社でキャンペーンが展開されました。その名もずばり「紙の本を読みなよ」
槙島聖護.jpg
アニメ人気も追い風となり、盛況を博したこのキャンペーンは2014年に再び催されました。

「人と本とのインターフェイス」 山本貴光氏 日本図書設計家協会創立30周年記念講演会「本の未来を考える」より

 昨年9月、日本図書設計家協会創立30周年記念講演会での文筆家 山本貴光氏の「本の未来を考える」という話は、ブックデザイナーだけでなく、本に携わる人間にとって参考となり活力となりました。山本氏は著書「文体の科学」の中で「文体とは文章だけではなく、書き記した物質も大切なファクターである。」と述べています。
 コンピューター時代が進み、文章は内容と表現が分離していると山本氏は言います。例えばデジタルデータで読む夏目漱石の「我輩は猫である」は、ユーザーが選ぶデバイスによって文章の内容は同じであっても、文脈・段落の表現が異なり、読者の感じ方も違ってきます。

 山本氏によると「(紙の)本を読む」という行為は、たんに文字を目で追うということから、読み手の認知活動に働きかけ、記憶を補助する役割を持つと言います。インターフェイス(inter+face)とは接触面、二つの何かが向き合う状態のことを表します。人と本とが向き合うとき、その接触面に何か起きるのです。それは「手と本の間」「目と本の間」「精神と本の間」に何かが生まれ、結果、読み手の思考・記憶を再構築させる作用を持たらします。

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未来に遺こる本と紙流通の役割 

 また、「本を読む」という行為は「楽しむ」「知識を得る」ひいては「記憶をつくり変える」という読み手の認知活動に働きかける行為であるのならば、私たちは「本」をどう使い、どう読むか、どういう環境で読みたいかが大切になってきます。
 「紙の本は無くなるか?」との問いに山本氏の答えは「NO!」です。また「一度読んで終わる本は電子書籍でもOK」と言い、それは逆に「精読したい本、再読したい本は紙媒体で読みたい」ということです。無機的に並べられるパソコン内のフォルダと違い、様々な表情を持つ紙の本は本棚に並べておくだけで、人の記憶を呼び起こす役割があるとも言います。

 「紙の本」が人の「認知」と「感情」に働き掛ける為に「Design(デザイン)」「Material(紙・印刷加工)」は重要な要素です。未来に遺こす本の「Material」の提供は紙流通会社の役割です。

 ヤマトの紙流通会社としての機能を大きく分けると「保管」「輸送」「小口販売」「新素材の商品化」「プロモーション活動」などが上げられます。多くの紙に直接接する機会も他業種よりは当然あり、自ずと紙に関する知識も蓄積されています。
 「紙の知識」は検索機能が発達した昨今、ある程度は誰にでもその場に応じて引き出すことが可能です。しかし私たちが蓄積した知識は、紙を調べ、販売し、印刷や加工に携わることで、目で見て、手で触り、五感を駆使して培ってきたものです。これら作業は単にコンピューターに代替出来ないオペレーションだと思っています。私たちの「知識のひきだし」をもっと増やし、場面場面でより広い分野に活用していくことが今後の課題です。

 共に進む出版社・ブックデザイナー・技術と熱意ある印刷加工会社の方々と手を組み、「次の世代に遺こす本づくり」をサポートしたいと切に願います。

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